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水浦海岸鉄道

▲周遊列車『トワイライト』 (ライター)高沢 文博 著

■クルーズエクスプレス『トワイライト』
 この鉄道の看板列車の1つが、この周遊列車『トワイライト』である。東浦〜水浦海岸間を土日祝日に一日一往復している。停車駅は特急とほぼ同じだが、所要時間は違う。そして何よりも特筆するべきなのは、駅の改札で切符を買っても、この列車に乗車は出来ないという事だろう。乗車する際には、乗車日の5日くらい前までに、旅行会社のツアーに申し込まなければならない。そしてツアー参加者に配られるクーポン券の中に、この列車の切符が入っている。それでは、この列車の旅を少しだけ見てみよう。


□特別な観光列車
 当日、クーポン券を持って東浦駅へ向かうと、趣の違う部屋があることに気づく。駅員に聞くと、この列車に乗る人に乗車前までくつろいでもらおうと準備されているラウンジだった。クーポンを見せてラウンジへ入ると、部屋全体が緑に統一された空間が広がっている。待合のソファーもダークグリーンで統一され、観光用パンフレットを置いてある棚とか一部分のみが浮いて見える。そこまで利用者が多いわけではなさそうなのだが、なぜ特別待遇なサービスを乗車前から行っているのか分からなかった。


□ご対面
 やがて駅員がラウンジにいた乗客を改札へ案内する。
 改札でクーポン券を見せ、駅のホームへ。そこにはダークグリーンの客車と、青い業務用車が連なった列車が停車していた。中へ入ってみると、中は落ち着きのある豪華な作りで、これからの旅に一層の期待が沸く。ホームには仕切りなどはなく、代わりに駅員が列車に背を向け、乗降口に近寄ってきた人を見張っている。そこまで厳戒でもないようで、列車をバックに写真を撮ろうとしている親子連れに近寄ってカメラを受け取り、シャッターを押してあげたりしている。 この時間は列車が少ないためだろうか、比較的穏やかな時間が流れていた。
 そのうちに乗り込み、車内から他のホームに目をやると、普通電車がホームへ入ってきた。乗客がひとしきり降りると、一部のドアが絞められた。この日は気温が高く、列車の冷気が逃げるのを防ぎたいのだろう。
 やがて『ピー!!』と駅員が笛を吹き、発車合図をすると、列車は静かに動き出した。


□観光地に長く停車
 車内アナウンスを聞くと、列車が東浦に戻るのは、夜になるという。列車は片道利用はなく、往復利用のみ。乗車した利用客は、食堂車でコーヒーを飲んだり、出された軽食を食べたりしながら車窓を楽しんだり、個室寝台でくつろいだりと、思い思いに過ごしている。列車は小さな駅を通過し、普段の特急と変わらない速度で走っている。
『次は、黒澤宝石駅に停車いたします。この列車は、当駅で30分ほど停車いたします。』
 次の停車駅へ30分間停車…まだ乗車してから20分も経っていないが、乗車時間を上回る停車時間を告げられた。列車は待避線側のホームへ停車すると、乗客は小さな荷物を持つか手ぶらで列車を降りる。筆者もカメラと貴重品をもって一度列車の外へ。駅前には『黒澤宝石店』と書かれた大きな看板を掲げる大きな建物、そして『C57-135』蒸気機関車が駅の引き込み線に展示されている。紹介する看板には、前身である水浦臨海鉄道時代から走っていた機関車であること、今でも週1回は水浦海岸鉄道線の線路で動態運転を行っていることなどが書かれていた。さすがに今日は運転日ではないらしく、機関車はただ静かに黒い体を休めていた。
 30分の停車時間も短し、黒澤宝石駅を発車した列車は、次の松浦海岸駅を通過した。駅から見える海岸では、多くの海水浴客の姿が見える。波も比較的穏やかのようだが、歓声を伺うことは出来ない。駅から海岸は少し離れているし、列車も相応の速度で走っているからだ。海岸を一瞬で通り過ぎ、次の果南公園駅で対向列車とすれ違った。列車は順調の進み、次の小原町駅では20分、高海駅で20分停車した後、旅の折り返し視点である水浦海岸駅に到着した。乗客の多くは大きな荷物も一緒に持って下車し、駅の改札口へ向かう。駅前へ行くと、この列車の乗客を待ち望んでいたかのように、協賛する地元のバスが待機していた。バスに揺られて10分、昼食会場となっている旅館に到着した。出発までの3時間余り、昼食は無論、その後に温泉に浸かることも可能になっていた。それぞれが思い思いにひと時を過ごし、集合時間までに旅館に待機していたバスに乗り込む。帰りのバスに揺られたのち、水浦海岸駅へ。再び列車に乗り込むこと数分、停車した高海駅から景色を眺めると、空はオレンジがかってきており、夕暮れが近くなっているのが分かる。次の小原町駅の停車時間は短めの10分、列車の傍らを対向列車がすれ違ったり、一般列車が追い抜いて行ったりしている。次に停車したのは、行きに通過した松浦海岸駅。ここで30分余り停車。夕焼けに染まる海を駅から眺めることが出来た。やがて夕日も完全に落ち、黒澤宝石駅に着いた頃には辺りは薄暗くなっていた。ここで30分余り停車し、黒澤宝石店の系列の土産品屋で買い物をする乗客も数多くいた。
 列車がスタート地点であった東浦駅に到着したころには、既に夜になっていた。乗客は次々と下車し、あおぞら銀河鉄道との連絡改札口か出口へ向かって歩いていく。筆者は下車後、客車と、それをエスコートしてきた機関車を撮影していた。やがて全ての乗客が下りたことを確認、車内整理が済んだ列車は回送列車となり、車庫へ引き上げていった。


□旅の終わりに
 日常の忙しさに追われる日々の中に、のんびりとした非日常を。ゆったりのんびりと、夕方ひと時を味わえる列車であった。


 尚、トワイライトが運行できない際には、50000系が代走するようだ。以前は専用列車として『285系(通称不詳)』が一時入線。しかし使用不能となった事から現存していない。仮に285系が現存し、使用できていたのであれば…定期観光列車として増発していたのだろうか。


□後日談
 取材してから数日たったある日、書いた記事の原稿を持って水浦海岸鉄道の本社を訪ねた。そこで記事を見た社員の方から『トワイライトが理想の姿になったんですよ。これから試運転ですけど、ご一緒しませんか??』とお誘いをいただいた。2つ返事で快諾し、その列車が止まっている水浦海岸駅へと向かった。そこで待っていたのは、先頭の電気機関車は、相変わらずなものの、電源車もダークグリーンとなり、客車については色が統一された『トワイライト』だった。本当の意味で、往年の『トワイライトエクスプレス』を思い出させてくれる。最も、国鉄特急色のEF65PFが牽引したのは団体臨時の時と、定期運行終了後の『最後の1年間』だけ運転された『特別なトワイライトエクスプレス』くらいなものだが。

 案内役の社員と一緒に乗り込むと、以前に乗った時と内装などはそのままだが、調度品などは新しくなっていた。車内を一通り見たところで、試運転列車は発車した。今回は試験列車なので、通常の営業列車を先に行かせる・すれ違うための停車待避は多いが、営業列車である長時間停車は行われなかった。おまけに、食堂車で提供されていた軽食サービス類は行っておらず、途中駅で駅員が積み込んだ缶コーヒーが振舞われただけだった。
「今日はあくまで、性能面での試運転なので…」
 本格的なサービスを楽しめないのは残念だが、普段の乗客は乗れない試運転に、特別に乗せてもらっている事などの点を差し引いても、±0というところだろうか。各車両で検測されている点を見学しつつ、列車は東浦駅へ到着した。列車を降りる際、案内してくれた社員の方がお辞儀して見送ってくれた。最後に撮りそびれていた機関車を撮りに行く。非日常を演出するダークグリーンの客車とは違って、こちらは日常のなかにいる雰囲気を醸し出している。普段は客車列車の回送列車などを牽引するのに使用されているのを見たことがあるが、土日祝日…世間の『休日』に当たる日は、この周遊列車『トワイライト』の専用牽引機となって全区間をエスコートしている。
『脇役なのか、主役なのか、分からないな…。お前は』
 そう言いながら機関車を撮り、そして車体に触れた。
「そろそろ回送出るぞ」
 EF65PFの窓から顔を出した機関士に言われ、その場を離れた。
 改札を出ると、その日の夕焼けは本当に綺麗だった。


 後日、水浦海岸鉄道沿線で日常風景を撮影していた際、トワイライトの走行シーンを撮影できた。いつのまにか客車と色を合わせた専用の電気機関車が導入され、機関車と客車が一体化した雰囲気へと変わっていた。  

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